翌日の戦いの最中、誰も予想していなかった出来事が起きた。

源氏の大将である義経が弓矢を落とし、それを無我夢中で探しはじめたのだ。大将の首を狙う平家に囲まれながらの無謀な行動に、臣下が駆け寄り、義経をかばいながら刀を振るう。

なぜ、義経はリスクを犯してまでそんな行動にでたのか。義経の弓矢が平家の手に渡れば「大将の弓をとった」と言われるだけではない。物語では美少年だったと言われる義経だが、実はかなりの小柄であった。弓は使う人の体格に合わせて作られている。敵の手に渡れば間違いなく平家は「あんなに偉そうにしているのに、源氏の大将はこんなに小さいのか」とあざ笑うことだろう。そうなっては源氏の名がすたる。

必死の甲斐あって、義経はなんとか自分の弓矢を拾い上げた。それから義経は大将の自信を取り戻し、戦いながら臣下に的確な指示を出す。自身も大車輪の活躍で平家を圧倒した。やがて敗北が決定的なものとなった平家は屋島から逃げ出していく。

平家が滅亡に至る壇ノ浦の戦いは目前に迫っていた。

***

源義経とはいかなる人物だったのか。いろいろな説があるが、この碑を前に弓流しのエピソードを聞いていると、義経の人間らしい一面にその存在が確かに感じられる。

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