京は遠ても十八里。つまり、京都までおよそ70km。電車も車もない江戸時代、京都からいちばん近い海はここ小浜の若狭湾でした。だからこそ。早朝に小浜で水揚げされた鯖は一塩して、大急ぎで京都まで運ばれました。

どうして「一塩」するのでしょう。鯖はとても傷みやすい魚です。しかし、捕れたての鯖の腹をさばき、塩をふりかけることによって鮮度をキープすることができます。それだけではありません。今風に言えば、一晩寝かせているうちにタンパク質がアミノ酸に変わり旨味が増す。夜通し歩いて京都に着くころには、熟成してちょうど良い味わいになっていたのです。京都の料理人はこの「若狭の一塩もん」を競うように求め、塩をぬいて酢や昆布でしめて鯖寿司にする。そうして新鮮な魚をごちそうとして味わったのです。

このように若狭と京都をつなぎ、鯖を運んだ道が鯖街道。この場所が起点であるのは、もともと小浜の市場がここにあり、魚屋がひしめいていたから。まさにこの場所から鯖を担ぎ、峠を越えて、翌朝には京都に辿り着いていたのです。これは江戸時代のお話。でも、この場所を起点として、日本の食文化を支えてきたのは太古の昔から。奈良時代より昔、「御食国」と呼ばれた時代にさかのぼります。

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