屋根に掲げられたマークは「朝日」。旭座は古い芝居小屋。というわけで、「御食国」と呼ばれた古代、鯖街道の夜明けというべき物語を聞いてもらいましょう。
その昔、「膳臣(かしわでのおみ)」という人物がこの地を治めておりました。膳(かしわで)という字は食事をあらわす「お膳」の膳。なんともご縁を感じるこのお名前。実は、天皇が住まう都の食事を司っていたから。それも塩を納めていたからと言われています。
というのも、日本は島国でございますので、岩塩ではなく、海水を煮詰めて塩をつくっておりました。とりわけ若狭では大がかりな土器を並べて塩を大量生産。今でも浜辺を裸足で歩いているとイタタと良からぬものを踏んづけることがあるものですが、拾い上げてみると、それもそのはず土器のかけら。そんなことが珍しくないぐらい塩づくりが盛んな場所だったのです。
昨今では「減塩」と言われ嫌厭される世の中ですが、古代において塩は貴重なミネラル源。若狭の塩を都に送るという大切な役割があり、古代より都の食事を支えてきた御食国であったからこそ、膳臣というご縁あるお名前を授かっていたのです。
この噺を知れば、まち歩きの喜びも“ひとしお”。鯖街道は、塩街道。鯖に一塩して運んだ、その「塩」にこそルーツがあったといえるのかもしれません。
それでは、お後がよろしいようで。