まずは屋根の向きを見てみましょう。街道に八の字を見せているのが「妻入」。街道に軒を見せて、雨や雪が街道側に落ちるようになっているのが「平入」です。宿場町としてはどちらかに統一されることが多いのですが、熊川宿は妻入と平入が不思議と調和しています。

この場所でいえば、妻入の建物が村田館です。京料理の大家が生まれた家で、熊川らしい。というのも、熊川は小浜と京都をつなぐ鯖街道の中継地点。京都の食文化を支えてきた食の通り道だからです。

その昔、小浜の港では男が漁師。女が鯖売りとして捕れたての魚を熊川まで運んでいました。女たちは朝、仄暗いうちから重たい荷物を背負って小浜を出発。途中の村のお得意先に寄りながら熊川に着くころには昼でした。鯖だけではありません。小鯛、鰈、鰻など、いろいろな魚を熊川の問屋に売り歩きます。そのとき、着ている上着の袖の中に、売る人、買う人の両方が手を差し入れて、お互いに指で示し合って価格を決めていました。そして、商談を終えた女たちは、すっかり軽くなった籠を担いで小浜に帰っていきます。

この場所では、意気揚々と帰路に着く女たちの明るい話し声が聞こえたことでしょう。

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