「ギルガメッシュ叙事詩」を知っているだろうか。これは古代メソポタミアを舞台にした世界最古の物語で、そのハイライトのひとつに「ギルガメッシュ王のフンババ退治」がある。森の守り神であるフンババを倒して、レバノン杉を持ち帰るというストーリーだが、これは「自然に抗いようのなかった人間が、逆に自然を支配する立場になる」という歴史的転換点を物語化したものだと言われている。
レバノン杉は建物や船を建てるための貴重な資材だった。木材としてあまりに優れているため、人々は奪いあい、紛争の火種となった。その結果、現在は絶滅の危機にある。レバノンの国旗にはレバノン杉が描かれているが、そのレバノンですら、ほとんど見かけることはないという。そんなレバノン杉が、新宿御苑にある。レバノンの人たちにとって、この風景はどんなふうに見えるのだろう。それは、こう想像してみることができるのかもしれない。日本のサクラが絶滅して、ワシントンにあるサクラだけが残ったとすれば。そのサクラがある風景を日本人はどんな気持ちで見るのだろう、と。