松本の市街地は扇状地の端に位置しており、少し掘るだけで地下水が湧き出てくる。特に女鳥羽川の南にある町人の町では、湧き出る地下水が生活用水として使われていた。その中でも「源智の井戸」は、清らかな水が出ることで知られていた。江戸時代の書物でも「当国第一の名水」と紹介され、酒屋がこぞってこの水を仕込みに使ったことが書かれている。この井戸は、松本の水の清らかさを象徴する存在だ。
源智の井戸の名前は、『善光寺道名所図会』によると、小笠原貞慶の家臣であった「河辺縫殿助源智」の名前から付けられた。河辺氏は中世以来この地の地頭でお屋敷がここにあった。歴代の領主たちは、重要な拠点として井戸の清潔さを保つため、水の保護に努めてきたという。
源智の井戸の水は、喫茶店のコーヒーや蕎麦、バーのカクテルなどにも使われており、多くの人々がここに水を汲みにやってくる。清らかで豊富な水が、多くの人々を引き寄せる。城下町をめぐる旅もあと少し。名水で喉を潤して、先へ進もう。