境内に足を踏み入れた瞬間、空気がすっと澄みわたるのを感じるかもしれません。石上神宮は、日本最古の神社のひとつといわれ、祈りの風景が今も静かに息づいています。

かつて、石上神宮は「布留社(ふるしゃ)」とも呼ばれていました。布留とは、布に留まると書きます。その由来のひとつに、こんな物語が伝わっています。

ある日、正直なお婆さんが川で洗濯をしていると、上流から一本の剣が流れてきました。剣は岩や木を次々と斬り裂きながら、どんぶらこ。お婆さんのところまで迫ってきます。あわてて身をかわしたそのとき、剣は洗っていた白い布にするりと包まれ、ぴたりと動きを止めたのです。

「これはきっと、神様の授けた剣に違いない」と考えたお婆さんは、この剣を神社に奉納しました。それ以来、この地は「布留社」と呼ばれるようになったといいます。

この物語には続きがあります。剣を拾ったと聞いた欲張りなお婆さんが、自分も何か拾おうと川辺へ向かいました。すると、金銀財宝が流れてくるではありませんか。大喜びで持ち帰ったものの、翌朝見ると、それらはすべて岩に変わっていました。それが、このあたりで見られる「烏帽子岩(えぼしいわ)」だという話もあります。

そんな物語に耳を澄ませながら、祈りの風景をたどる旅を始めていきましょう。

Next Contents

Select language