この先に何ヶ所か、このような「ガタガタ」の溝がある。これは何のためにあるのか。
ヒントは「牛」である。ここから先は放牧地であり、この場所は人が暮らすエリアとの境目にあたる。このガタガタは牛が人里に迷い込まないようにするためのもので、牛たちは溝に足がはまることを恐れて越えてくることができないのだ。
逆にいえば、この先は牛たちが暮らすエリアにお邪魔することになる。車が牛に通せんぼされることも一度や二度ではないかもしれない。ほとんどの牛は車が近づくと道を開けてくれるはずだが、中にはどっしりと構えて動かない牛もいる。そんなときは車でじんわり近づいて、それでも動かなければ、のんびり待ってみてほしい。牛たちの時間がいかにゆっくりであるか、その流れに身をまかせてみると、いかに人間の時間がせわしないか気づくことになるかもしれない。
隠岐では鎌倉時代に「牧畑」の記録が見られ、古くから田畑の労働力として牛と一緒に暮らしてきた。が、現在は食用の子牛を育てている。子牛は生後6ヶ月から10ヶ月ほどでせりに出され、日本全国へ散らばっていく。つまり、あなたが普段食べている牛肉も生まれは知夫里の牛であるかもしれないのだ。