知夫里島には、つい最近まで図書館がなかった。しかし、2017年11月に学校図書館としてオープン、2018年4月には公共図書館として開放された。ぼくは、そんな図書館の司書である「南家さん」に移住や島の図書館のあり方について、お話をうかがった。



──知夫小中学校の生徒は何人ぐらいいるのですか?

小学生と中学生をあわせて43人かな(2018年現在)。多い学年は10人いて、少ない学年は2人とか。小学校は「複式学級」で1・2年生が一緒のクラス。2年間で2年ぶんの授業を受けるから、5年生が6年生で習う授業を教わったり、その逆もあります。中学校は単式学級で、学年別に3クラスあります。ちなみに、2階が小学校、3階が中学校になっています。

──南家さん自身は外から島に来られたらしいですね?

そうですね、Iターンする前に住んでいたのは千葉です。

──何をきっかけに知夫里島に?

旦那が仕事を辞めて「漁師になりたい」と言い出して(笑)。旦那の実家は境港市なんですが、知夫里には一度も来たことがないまま千葉で働いていたんですけど、なぜか「漁師になりたい」と言い出して……

──止めなかったんですか?

いいえ、止めましたよ(笑)。止めましたけど、折れないので、しょうがないからついて来て……

──じゃあ、旦那さんはいま漁師を?

それが、漁師じゃないんですよ(笑)。 牛飼いをやっています。でも頑張っています。とても。

──知夫里に来て何年になるんですか?

16年になりますね。

──島には慣れましたか?

すごく慣れました。もう感覚的には「島の人」というか、自分ではそんな気がしているかも。「Iターンで来た人が帰らないといいな」と思ったりする感覚が、もう完全にこっち側に来てしまっている感じですね(笑)

──千葉は都会ですから最初はギャップを感じませんでしたか?

外食ができないことがすごくイヤでした。疲れているのに毎日3食作らなければいけないというのがイヤで、よくキレたりしていました。「今日はファミレスに行きますからね!」みたいな(笑)。もちろん知夫里にファミレスなんてないから、結局自分で作るしかないんですけど。

──ぼくはしばらく古海の古民家に住まわせてもらってるんですが、毎晩カップラーメンです(笑)。もう食べ飽きたんですけど、自分で料理するのも大変だな、と思って。商店にも食材が多いとはいえないし……

そうそう、そうなんです。最初のうちは欲しい野菜がないとかで困ってたんですけど、今や、あの少ない品ぞろえでも適当に料理できちゃうんですよ。あとはみんなが食材をくれるようになって。でも、くれる食材が同じなんですよね。たとえば、アジが採れる時期になったら、みんながみんなアジをくれて(笑)。大量のアジをさばき終わってお風呂から上がったら、もう一回アジが届くみたいな(笑)。大根とかも季節になると山積みになるし(笑)。もちろん嬉しいんですけど、はじめはビックリした。ないでしょ? 都会にいるとそんなこと。

──島に慣れてきたのは何年目ぐらいからでしたか?

何年目だろうな~。わからないけど3、4年目くらいなのかな。少なくともいちばんハードルが高かった「毎日ご飯を作ること」に何の抵抗もなくなったときは「だいぶ慣れてきたなー」って思ったのと、魚が大量に手に入ったときに「この魚はフライにして、この魚は刺身にして」と、ガーッと自分の中で組み立てができるようになって、さばいたときにもバットの上に分けてきれいに並んで……と、そういうことができるようになったときも「慣れたわ~」って思った(笑)

──ところで、知夫里に来たときから図書館で働こうと思っていたんですか?

いえいえ、全然。最初はこの学校の給食の調理員をしていたんです。たまたま空きがあったので、島に来てすぐ働きはじめましたね。そうしながら通信教育で「図書館司書」の資格を取りました。移住して7年目くらいのときかな。

──どうして司書の資格を? 知夫里には図書館がなかったんですよね?

うん、でも本が好きなんです、私。ちょうど世の中的に司書が必要だという機運が盛り上がっていたのは感じていたし。だから、「あわよくばどこかで」と思っていたら、資格を取った1年後に島根県の全高校に学校司書を設置することが決まって。それによって「島前高校」から司書の募集があったのでスルッと入れたんですよ。

──となり島の海士町にある島前高校ですね。

このへんで唯一の高校なんですけど、そこの司書として働きながら、知夫里に図書館ができるのを待っていたんです。というか、「知夫里に図書館ができるなら私に声をかけて」とアピールはしていて。そうしたら声をかけてくれたので、去年1年間はずっと準備をして、2017年の11月に学校図書館として開館。2018年の4月からは公共図書館として開放という運びになりました。

──図書館司書の仕事は本を選ぶことなんですか?

本を選ぶことはもちろんですが、開館前の準備期間中は本棚のレイアウトを教育委員会の方と一緒に考えたり、本を登録する作業をしたり。あとは学校図書館として授業の支援も大きな仕事のひとつ。学校の授業で使う本の調べかたを教えたり、文章のまとめかたを教えたり、そういうこともしています。本を選ぶということでいえば、まだあまり読書に対して慣れていない人が多いので、できるだけ知夫里に密着した牛の本だったり、野菜の本だったり、釣りの本だったり、地域を良くしていこうみたいな本だったり、そういう読みやすい本を選んでいますね。

──特集コーナーには沢木耕太郎さんの「深夜特急」が置かれていますね。

深夜特急は私のバイブルでもあります。やっぱりマカオ編がアツいよね。今も大好きだけど、深夜特急は若いときに読んでほしいと思って。少し前までは「夏だから冒険しよう」というテーマで、栗城史多さんや石川直樹さん、植村直己さんの本も並べていたんです。男の子とかね、そういう子を狙って。知夫里の学校は生徒数が少ないので、「あの子の世界観にピッタリなんじゃないか」とかピンポイントで選書を考えやすい環境だし、考えなきゃいけないと思っているんですよね。

──本を読んでどんな大人に育ってほしいですか?

色んな本を読むと色んな価値が入ってくるじゃない? 私は割となんでも「そういう考え方あるよね~」と許容してしまうほうなんですけど、色んな本を読んだり、色んな映画を見たりして、色んな価値観を自分の中に持っているほうが心が広い大人になれるのかなと。本を読んで「こんな世界があるのか~」と「へぇ~」と思うだけでもいいと思うんです。

──知夫里を訪れた旅人が、知夫里で読むべき本を挙げるとすればなんですか?

うーん、難しい~! 知夫里の本は郷土資料としてのものが多くて、読み物として楽しめる本がないんですよね。あえていうならこれかな。「隠岐 知夫里島 謎解きブック」! もし、知夫図書館に来られたなら、子供たちがいて地域の人がいて一緒くたになっている感じを見てもらえたらいいなと思います。




知夫図書館は「学校図書館」でありながら「公共図書館」でもある。だから、一般の大人たちも図書館に通うために校門をくぐり、学校の中に入ることができる。その光景は、日に日に警備が強化されていく本土の小中学校とは対照的。今となっては「小さな島の図書館ならでは」といえるのかもしれない。


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