地図もGPSもない時代、人は何を頼りに旅をしたのか

魔法陣のように並べられた貝殻を見つけることはできただろうか? 大小32個の貝殻が示すのは水平線から星が上る方角と沈む方角だ。GPSやコンパスがない時代、ミクロネシアでは航海師たちが、星々から自分の今いる場所と進むべき方向を読み取り、島影が見えない大海原で船を導いていた。その学習に使われたのがこの星座コンパスだ。

星の知識にはレベルがある。まずは主要な星の位置関係を覚え、次に船のパーツと結びつける。たとえば、あなたはグアム島にいて、ミクロネシア連邦のサンゴ礁の島、ポロワットに向かっている。目指すべき方向に見えるのは「さそり座アンタレス」。夏の夜空に浮かぶ赤星だ。しかし前方が雲で覆われている場合はどうする?「コンパスの対角線上にある”こと座ベガ”、すなわち”織姫星”を背後に探す」と、答えられたあなたは航海師レベル1。ではベガも見えない場合、カヌーのアウトリガーはどの星に向ける? これに正解できたらレベル2といったところだろうか。さらに先に進むと、あらゆる島の方角と、500個以上の星や星座とを紐付けられるようになる。

星の知識は海に限らず、陸の上でも活用された。試しに手を握ってその拳を地平線と平行になるように真っ直ぐに突き出してみてほしい。親指の頭は約10度の角度。拳を上に積み上げていくことで星がどれくらいの角度に上っているか、つまり時間を測ることができる。明け方に東の空に夏の星座が上るようになったら種をまき、冬の星座が見える季節になったら収穫するというように、星は季節も教えてくれる。GPS、コンパス、時計、そしてカレンダー。星空は、太平洋の島の人々みなにとっての宝物だったのだ。

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