それは記憶の地図

椰子の葉の枝柄(ようえい)に、穴の空いた貝殻がくくりつけられている宝物を見つけられただろうか?

これはレビリブと呼ばれるスティックチャート。ミクロネシアのマーシャル諸島に残る海の図で、星座コンパス同様、航海師の訓練に使われていたものだ。貝殻は島。直線は海流。曲線は海流が島にあたって跳ね返ってくる反射波を表している。反射波があるということは、その先に島があるということ。ベテランの航海師は、自分が体得した海の知識を地図にした。現在の海図のように正確に海の地形を表したものではないが、ここには島と島を繋ぐ航海者たちの秘伝が詰まっている。

航海師を目指す若者は、年配の航海師からスティックチャートや星座コンパスや海の図を使った授業を受けることで基礎知識を学ぶ。先輩航海師と一緒に何度もカヌーで航海することで、実施訓練を受ける。星と太陽、波とうねり、海流や潮流、雲の有無や色、風の向きや強さ、空の鳥や海中の魚や亀の動きなど、あらゆるものを読み取って島々を行き来する術を学ぶと、彼らはいよいよ「ポの儀式」という航海師の登竜門である試験に挑む。試験に合格しても航海術の習得はまだまだ続き、一人前の航海師として認められるのに、時には何十年という時間がかかったともいわれている。小さな島での生活は、周りの島々との交流によって成り立ってもいるため、海に出て、迷わずかつ安全に島々を行き来することは、船の乗組員だけではなく、島の人々の命を預かる大切な仕事なのだ。

ちなみに航海師たちは、この海図を実際の航海時は持っていかない。知識は全て頭の中に入っているべきものだからだ。航海師になる訓練の中で培った記憶と知恵そのものが、航海師にとっての宝であり、彼に命運を託した島の人々にとっての宝でもあったのだ。

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