その重みは、信頼の重み

真ん中に穴の空いた巨大な石は見つかっただろうか? これはヤップ島で流通しているお金だが、元はヤップ島のものではない。その昔、島の人々はこの石を、450㎞離れたパラオからイカダに浮かべ、カヌーで牽引して運んできていた。大きいものは直径3m近く、重さは5tにもなるというから、運ぶ途中で海の底に沈んでしまったものもあるだろう。

現代のお金が流通する今でも、ヤップ島のあちこちには、このお金が地面にどんと鎮座していて、地域内での取引に使われている。たとえば土地の売買・お祭りのときの食べ物の支払いや結納の時だ。動かすのは大変なので、所有権だけが移っていくシステムになっていて、ゆえに自分の家の前にあっても、自分のお金ではないということも多い。

ところで19世紀後半、欧米人が当時、最新の機械を使ってパラオから削りだした石貨(せきか)、石のお金を大量に持ち込み、ヤップ島で財を成そうとしたことがある。今なら3Dプリンターで同じ物を大量に作ることもできるかもしれない。そうしたら私たちもヤップ島で大金持ちになれるだろうか?答えはNO。実は、欧米人が作った新しい石のお金もあまり価値がないとみなされている。なぜなら、それは島で長く取引されていないからだ。

この石のお金と現代のお金に、ひとつ大きな違いがあるとすれば、それは取引の歴史そのものが価値になるということ。誰が最初に持っていて、どんな出来事の際に、誰から誰に渡った石なのか、その歴史が長いほど、石のお金の価値は高くなる。本当の価値は、信頼と交流の歴史だからだ。

お金でありながらもはやお金を超えたもの。だからこそ島の人々にとっての宝物なのだ。

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