ずらりと並ぶ船はサバニ。沖縄を代表する伝統的な漁船だ。太平洋の島々のカヌー同様、このサバニも、沖縄の海での暮らしに欠かせない大切な道具だった。小回りが利き、分厚い船底板は浅瀬の多いサンゴ礁の海でも破損する心配がない。そして波を切って進む性能に優れている。琉球王国時代、沖縄の漁師たちはこの船に乗って中国に献上するフカヒレを採っていたのだ。
このサバニ、時代とともに形や材料が変化して今に至る。リボン型の結束具が埋め込まれた船を見つけることはできただろうか?
この結束具はフンドゥー。明治時代にこの小さな結束具が誕生したことによって、サバニは革命的な進化を遂げた。カヌー同様、サバニも最初は一本の材木をくり抜いた刳り舟だったが、このフンドゥーで、板と板をつなぐことができるようになり、より大きな船を作ることが可能になったのだ。
サバニは船大工によって造られるが、中でもフンドゥーは船大工の芸術といわれている。木から削り出して、船に隙間を生まないよう完璧な形に整えるのだが、その超絶技巧は設計図には落とせないという。このフンドゥーを何十、何百個と埋め込むことで、釘を一本も使わず、錆びない船を作れるのだ。
船が大きくなるということは、より遠くに出かけていけるということ。そして大型の追い込み網で獲った大量の魚を運べるということ。糸満の漁師たちは、このフンドゥーが埋め込まれた船に乗って、遠くはインド洋の沖合まで出かけていたという。フンドゥーは舟の板を結ぶだけでなく、島の人々をより遠くの世界へと結んでもいたのだ。
フンドゥーを作り出す「精巧な船大工の手業」。その技こそが宝物といえるかもしれない。