その場に根付く物語を 自分の心境と 重ねあわせる

あなたには、この木はどう見えるだろう。この高さ20mの大木は「ヒマラヤ杉」。原産地は名前の通りヒマラヤである。真っ直ぐに美しく育つことから、多くの国で親しまれている木でもある。このヒマラヤ杉も、はじめは絵に描いたクリスマスツリーのような美しい姿形をしていた。しかし、東京の雪はヒマラヤと質が違う。水分を多く含んだ重たい雪が降る。その重みに耐えきれず、姿形がいびつに崩れてしまったのだという。ここで、もう一度聞こう。あなたには、この木はどう見えるだろう? その姿形を醜いと思うだろうか。

あなたはいま、幼いころに思い描いた通りの自分だろうか。「大人にはいろいろある」その昔、誰かに言われた言葉は本当だった。それを理解したとき、人は大人になるのかもしれない。大人になるということは、自分と関わる人が増えるということ。自分だけの人生じゃなくなるということ。ときには、自分を曲げる必要だって出てくる。はじめは抵抗していた気もするが、いつしか曲がりゆくことに慣れてしまった自分がいる。そしてあるとき、ふと鏡に写った自分を見て思うのだ。「こんなはずじゃなかった」と。しかし、そう思わない人なんているのだろうか。どんなに立派に見える人だって、きっとそう。どうせ人間なんてどこかおかしい。自分だけがおかしいわけじゃないのだ。たとえ、幼いころ思い描いたような真っ直ぐな自分でなくても、踏ん張って立ち続けてきた姿は、あの頃より少しぐらいはたくましい。もしかすると、そんな心境が重なるかもしれないヒマラヤ杉。この大木もまた故郷から遠く離れた東京で、曲がりながらも根を張って立ち続けている。

Next Contents

Select language