歌舞伎や狂言、落語など、数々の伝統芸能に舞台を提供してきた北野文芸座。ところで、善光寺が舞台となった落語噺を知っているだろうか。
善光寺には、ありがたいハンコを押したお守りがあったそうだ。お守りを手にした人はどんな宗教宗派であっても、またはどんな悪人であっても極楽浄土へ行くことができたという。このうわさが広まると、善光寺はこれまで以上に参拝客でにぎわった。
ところが、これに頭を抱えている者がいた。地獄の主、閻魔大王だ。誰もが極楽へ行ってしまうと、地獄は人が減り、不景気になってしまう。ついには、食うに困った鬼が自慢の金棒を売り、薪が買えないので灼熱の地獄の釜を沸かせないありさまだ。
困った閻魔大王は、地獄の釜から大泥棒・石川五右衛門を呼び出した。そして、このありがたいハンコを盗んでこいと命じたのだった。
数々の盗みを成し遂げて来た五右衛門にとって、小さなハンコを一つ盗むくらいお手の物。あっという間にやすやすと盗んでみせた。華麗なる盗みの腕に酔った五右衛門、小躍りしながら退散する。去り際、調子に乗った五右衛門は歌舞伎役者よろしく見得を切り、ハンコを額に押し当てた。
「決まった」。そう思う間もなく、五右衛門はすーっと極楽へ飛んでいってしまったそうだ。